おはようございました。アラレです。
部品メーカーから自動車メーカー(以下、OEM)に転職してもう5年以上がたちました。いろいろあって複数社OEMを経験して、今は海外駐在中です。
生産管理の仕事といっても種類は本当に多岐にわたります。
今日はその「生産管理の一日」でも、その中のさらに一つの役割で生産計画担当(呼び方はOEMによります)――
「何日に、何台の車をつくるか」を決めている人
の一日を覗いてみます。
先に結論だけ言うと、
- 文系職だけど、やっていることはほぼ数字のパズル
- 業務は想像以上に縦割りで、自分の“守備範囲”は意外と狭い
- やりがいはそんなにないが、ミスった瞬間にラインが止まりトラブル報告書行き
- 逆にミスらなければ、のらりくらりと何十年も生き残れる
そんな仕事です。
生産計画立案ってそもそも何をしているのか
同じ「生産管理」でも、役割はいくつかに分かれています。
ざっくり例を挙げると、
- 今日つくる車の「順番」を決める人
- 一日でつくる車の「種類の配合」を決める人(グレードや色の割合)
- 週・月単位で、「何日に何台つくるか」を決める人
今日はこの中の三つめ。
「カレンダーと台数」をいじっている人の話です。
工場には、
「この日に◯台ラインを流します」という“生産計画カレンダー”があります。
この数字が、
- 多すぎると → 部品が足りない、残業地獄
- 少なすぎると → 在庫不足、営業からクレーム
- トータルがおかしいと → 工場の年間稼働が崩壊
するので、
見た目はただの数字でも、意外とシャレにならない仕事です。
8:10 出社:まずは「昨日の答え合わせ」から
とある平日の朝。
PCを立ち上げて最初に見るのは、
**「昨日、本当に予定通りの台数ができたかどうか」**です。
- 実績台数
- ライン停止時間
- 稼働率
- 残業時間
を、ちまちまシステムやExcelで確認していきます。
ここでズレていると、
今日以降の計画をこっそり修正しないといけません。
「昨日 520台つくる予定が、実績 505台でした」
この15台が、地味に効いてきます。
- 今日 505+15 =520台に盛り直すのか
- 週のどこかで“穴埋め日”を作るのか
- 販売側に「ごめん、今週出荷5台減る」って頭を下げるのか
こういう調整を、
誰にも褒められないまま、こっそりやるのが朝イチの仕事です。
「昨日もラインは止まったけど、なんとか計画台数は死守しました!」
…という日は、心の中でだけガッツポーズをします。
誰も褒めてくれませんが、ラインが止まらないこと自体が“最高の成果”です。
9:00 朝会:短い会議に、全部の前提条件が詰まっている
次は、部門の朝会。
ここで共有されるのは、
- 今日の目標台数(◯◯◯台)
- 不具合情報(「◯◯部品がギリギリ」「△△ラインに注意」)
- 特殊イベント(来週の工事・棚卸し・突発の来訪など)
生産計画担当としては、
「今日のライン能力、本当にそのまま使っていいの?」
を確認する時間です。
たとえば、
「来週から△△工程で設備点検が入ります」なんて話が出てくると、
- 午後の生産能力が◯台落ちる
- 来週トータル◯台を死守したいなら、午前中に盛る必要がある
- でも午前中に盛ると、部品が間に合わないかもしれない
…みたいな計算を、会議中に頭の片隅でやっています。
このあたりからすでに、
「自分の裁量というより、前提条件のパズルゲーム」
感が強いです。
10:00 前提条件の確認:カレンダーと販売計画と部品の“線表合わせ”
朝会が終わったら、
「何日に何台つくるか」の前提条件を整理する時間です。
- 販売側の計画(今月、何台売りたいのか)
- 物流側の制約(船・トラックの枠)
- 生産技術側の制約(工事・改造・停止日)
- 部品供給の制約(「この部品だけ、今週◯台までね」問題)
これらを、1つのスケジュール表に重ねていきます。
ここで痛感するのが、
「自分の仕事は、ほぼ“他人が決めた条件の調整”でできている」
という事実です。
- 販売が「もっと売りたい」
- 生産が「これ以上ムリ」
- 調達が「部品がない」
- 品質が「この日だけ検査増やしたい」
みんなが勝手なことを言うので、
真ん中で帳尻を合わせる役になります。
やりがい?
正直、「ものすごく気持ちいい瞬間」は少ないです。
けれど、
この条件整理をサボると、
午後になってから「あれ、ライン能力足りなくない?」と発覚して、
結局は自分の首を絞めます。
11:00 エクセルとにらめっこ:「数字をいじるだけ」でグレーゾーンを埋める
前提条件が見えてきたら、
いよいよ具体的な台数を決めるフェーズです。
ここはシンプル。
やっていることは、ほぼエクセル。
- 1日あたり◯台
- 週合計で◯台
- 月合計で◯台
- ライン能力は最大◯台
- 部品制約は◯台まで
これを満たしながら、数字を微調整していきます。
ここでも、よくあるのが“グレーな折衷案”です。
- 販売「今月120%達成したい!」
- 生産「100%でもキツい」
→ 「じゃあ、とりあえず110%案を出しておきますね…」
みたいな数字になることが多いです。
中の人からすると、
「110%って何だよ」という感じですが、
- 販売側:「おっ、上振れ案出してきたな」
- 生産側:「いやいや、これは絵に描いた餅でしょ」
と、両方からツッコミを受けつつ、
結果として**「みんながそこまで怒らない着地点」に落ちていきます。**
ここでもやっぱり、
クリエイティブな“ものづくり”感は薄くて、
「条件に合わせて数字をいじる仕事」
感が強いです。
13:00 昼休み:ミスっていない日は、ラーメンがうまい
昼は普通に食堂でご飯を食べます。
- 今日の計画に、大きな地雷がなさそう
- 部品もギリギリだけど一応足りそう
- 販売からも変な突発が来ていない
こういう日は、ラーメンがうまいです。
逆に、
午前中に「これはマズいぞ…」という案件が見つかっている日は、
- ラーメンの味が分からない
- 食堂のテレビで流れるニュースが頭に入ってこない
- とにかく午後の会議の段取りを考えている
という残念なお昼になります。
14:00 午後の会議:外的要因との戦いが本番
午後はだいたい、外的要因との戦いです。
- 半導体が急に足りなくなった
- 輸入部品を積んだ船が遅れた
- 取引先工場が停電した
- 海外工場でストライキが発生した
- 予期せぬ品質トラブルで、特定仕様の車が出せなくなった
こういう情報が、どこからか飛んできます。
生産計画担当にとって、
これらはすべて「前提条件の書き換え」です。
- 今日 500台つくるつもりだったのに、
「この仕様の車は200台までね」と言われる - じゃあ残り300台をどうする?
- 他仕様に置き換える?
- 今日は300台で諦める?
- どこか別の日に振り替える?
この瞬間から、
午前中に頑張って整えたスケジュールは、一気に紙くずになります。
ここで求められるのは、
- 落ち着いて条件を整理し直すこと
- 「どの案がまだマシか」を関係者に説明すること
- 最終的に「誰が責任を持つか」をはっきりさせること
です。
やりがい?
…というより、
「嵐の中でカッパを着て立っている人」みたいな感覚に近いです。
16:00 ミスったら大問題、ミスらなければ“空気”
生産計画の仕事は、目立ちません。
ラインが予定通り回っているとき、
誰もあなたの存在を思い出しません。
- 販売は「売れた売れた」と喜び
- 生産は「今日も段取りおつかれ」と自分たちをねぎらい
- 経営は「計画達成しました」でご満悦
その裏側で、
- 数字を少しずつ修正し
- 前提条件をこっそり吸収し
- 外乱を見えないところで調整する
人がいるだけです。
でも、一度ミスると状況は一変します。
- 生産台数の計算を間違えた
- 部品制約を見落としていた
- ライン能力の前提を読み間違えていた
その結果、
ラインが止まる → 数百人が手待ちになる → トラブル報告書コース
になります。
トラブルが起きると、
「何が原因だったか」を延々と掘り返す会議が始まります。
- なぜこの日にこの台数を組んだのか
- 誰が、どの判断で、どの情報をもとに決めたのか
- そのとき他に選択肢はなかったのか
そして最後に、
「今後同じことを起こさないための対策」を3つ書いて提出してください
というお約束のフレーズが飛んできます。
やりがい、というより、
**「目立った瞬間はだいたい怒られるとき」**です。
逆に言えば、
「何も起こらなかった一日」が最高の一日
でもあります。
17:30 定時:ミスらなければ、のらりくらり生きていける
ここまで読むと、
「地獄じゃないか」と思うかもしれませんが、
実はそうでもありません。
生産計画の仕事は、
“やるべきことをやって、ミスらなければ”意外と平和です。
- 基本はデスクワーク(Excel・システム・メール)
- 工場の現場にはたまに見学で行く程度
- 夜勤もほぼない(部署次第ですが)
- 体力的にはそこまできつくない
そして、
文系でも全然やれる仕事です。
必要なのは、
- 数字に対する最低限の耐性
- 前提条件を整理するクセ
- 間違えたときに素直に謝れるメンタル
この3つくらいです。
華やかな「ものづくり」のイメージとはだいぶ違いますが、
「会社の血流(台数)をコントロールしている」という意味では、
裏方の中の裏方です。
生産計画立案という“文系の避難所”
自動車メーカーの文系職は、想像以上に縦割りです。
- 今日つくる台数を決める人
- 今日つくる車の種類の配合を決める人
- 今日の順番を決める人
- 部品側で間に合わせる人
- 販売側で数字を作る人
それぞれの守備範囲は、
自分が思っている以上に“狭く深く”です。
生産計画の「何日に何台つくるか」を決めている人も、
その一ピースにすぎません。
- クリエイティブなやりがい
- 目に見える感謝
- ドラマチックな成功体験
みたいなものは、正直そんなに多くないです。
でも、
- ミスらない限りは、のらりくらりと生きていける
- 外的要因でのトラブルは多いが、ちゃんと理由を整理できれば責められにくい
- 文系でも現場に近いところで“工場の心臓の鼓動”を感じながら働ける
という意味では、
「堅実に暮らしたい文系」にとって悪くないポジションでもあります。
もしあなたが、
- 派手な成果より、安定して会社に貢献したい
- でも、完全なバックオフィスよりは“現場の気配”を感じたい
- 細かい数字をいじるのは嫌いじゃない
というタイプなら、
生産計画の「台数を決める人」は、
意外と悪くない転職先かもしれません。
やりがいは薄味、責任はそこそこ。
でも、一度ハマると居心地がよくて抜けにくい――
そんな不思議な仕事の一日でした。
ちなみにルーチン以外にもいろいろあるよ
すてきな自動車メーカーの働き方、待遇についてはこちらをどうぞ





コメント